日本の女性メロディック・スピード・メタル・バンドが2014年にリリースした1stであり最後になってしまった唯一のフル・アルバム。
全10曲収録。
バンドメンバー
- 百合:Vocals
- 華子:Guitars
- 祥:Bass
- 沙季:keyboards
[ゲストメンバー]
- 莉乃:Drums
ドラムを演奏している莉乃という人はAlbionの元メンバーである。莉乃はレコーディング後に方向性の違いにより脱退。その為、元メンバー扱いとなり、アルバムの写真にも載っていないのだろう。ちなみに莉乃は②(華子と共作)・④・⑤・⑧・⑨で作曲もしている。
『Campanula』リリース後、ギタリストの華子が脱退した。その後は3人体制で活動をしていたが、翌年の2015年に解散した。
各楽曲ごとの解説&感想
①Eden
1分半程のインスト。幻想的な雰囲気で細かいフレーズを弾いているキーボードが特徴的な曲である。ドラム(打ち込み?)の音も入っているがバンド演奏ではない。
②全てを知らす鐘と迷宮に惑わされし者
メロディアスで幻想的な疾走曲である。百合は低域から高域まで生々しく且つ力強く歌っている。楽器では、哀愁さを感じさせるキーボードの音色と激しいドラム演奏が印象に残る。ギターも力強くメロディアスな演奏をしているが、他の楽器と比べると音量が小さい気がする。
曲はノリが良く印象に残りやすいメロディが沢山入っている。その為、アルバム冒頭からの掴みとしてはバッチリな曲であり、聴く者を引き付けるだろう。
③覚醒の暁
メロディアスで、やや疾走感のある曲。この曲では全編に亘って力強く歌う百合のボーカルが印象に残る。百合の声は低音だと黒猫(陰陽座)に近い雰囲気を持ち、高音になるとFuki(Fuki Commune,Unlucky Morpheus)の様になると思った。
3:13~3:55頃までギターソロとキーボードソロを交互に聴く事が出来る。曲は勢いがあって良いが、個人的にはドラムの音が大きすぎる様に感じた。
④宿命
シンフォニック・メタル風のキーボードの演奏から始まるミドル・テンポの曲。この曲は楽器陣が百合のボーカルを引き立てている演奏をしている印象を受けた。その為か、ギターもソロ演奏は無くリフに徹している。
曲の雰囲気としては他曲と比べると少しダークな感じなので、地味に感じるかもしれない。ただ、1番・2番・3番のそれぞれのサビで楽器陣の演奏や音色が異なっている所があるので、そこに拘りがある様に思えた。
⑤深き森の幻想の輪舞曲(Campanula Ver.)
2013年にシングル曲としてリリースされている。基本的な構成はシングル・バージョンとあまり変わらない。
違いを挙げるなら、下記の点である。
- キーボードの演奏が少なくなっており、演奏されている所も、少し潜んだ様なミックスになっている。
- 百合のボーカルが力強くなっており、コーラスも目立つ様になった。
- ギターソロはシングル・バージョンより泣いている様になっている。
そして、1番変わったのは音質である。正直悪くなっている(ただ、音質の悪さは他の曲にも言える事なので、あえて曲ごとには書いていない)。
それでも、シングル・バージョンより力強い演奏になっている。音質を問わなければ、シングル・バージョンも、このアルバム・バージョンもどちらも良いと思う。
⑥Paranoia~人形の涙~
アコーディオンとコミカルなギターの演奏から始まるミドル・テンポの曲。
しかし全体的には、やや暗めのサウンドである。歌詞が「人形が一緒に遊んでくれなくなった持ち主に対しての悲しみや憎しみ」についての内容なので、それも相俟っているのだと思う。
3:44から明るい曲調に転調し、冒頭と同じ様にアコーディオンとコミカルなギターの演奏で終わる。そのコミカルなギターが逆に、不気味さを与えていると思った。メロディの琴線力は弱いがトリッキーな曲である。
⑦Witch&Angel
3分20秒程の曲だが、ややヘビーで展開の多い曲である。展開が多くても技巧的という訳ではない。聴いていると忙しなさを感じるが、印象に残るメロディもあるので聴きやすいと思う。
曲が始まってから5秒後に弾かれる甘い音色のギターソロを、間奏の部分にも入れてくれたら、よりメロディアスになり琴線を揺さぶる力が増したのではないかと思う。
⑧碧瑠璃の空
明るく爽やかな疾走感のある曲。出だしのギターソロから気分を盛り上げてくれる。この『Campanula』の中では唯一「憂い」を感じない曲であろう。また、ポップさもある為、馴染みやすい曲である。人によっては「明るすぎて嫌だ」とか「メタルではない」なんて言う人がいるかもしれないが、色々なタイプの曲を作る事が出来るのはAlbionの強みだと思う。
私見だが、もしこの曲が1990年代後半~2000年代前半に発売されていたら、ヒットしたのではないだろうか?
⑨明日へ繋ぐ夢路
優しく丸みのある音色が印象に残るバラード曲。バラードではあるが、百合は力強く声を張り上げて歌っている。「バラードなのだから、もう少し優しく繊細に歌ってほしい」という意見が出るかもしれない。しかし、良くも悪くもこれが百合の歌の特徴なのだろう。
ジャズの様な雰囲気が時折するのも、この曲の特徴である。
⑩Flos paradiso~君に読む絵本~
緩急がある疾走曲である。とにかく勢いで引っ張ていく力があるので、途中でダレたりはしない。それだけではなく、情感に訴えてくるメロディもあるので、インパクトがある曲になっていると思う。
冒頭とサビの始まりで聴く事が出来る、幻想的なキーボードの音色(少しだけだが)が印象に残った。その音色を。もう少し曲全体に入れてくれたら、より他の曲と差別化が出来たかもしれない。
全体的な感想
まず気になったのは音質の悪さである。特にドラムの音が酷かった。スネアは「本当にスネアを叩いているのか?」という程しまりの無い音であり、バスドラは悪い意味で耳に残るネバネバした様な音だった。
ギターの音はリフもソロも粒の粗さが目立ち、正直あまり綺麗な音ではなかった(シングル『深き森の幻想の輪舞曲』では音質は良かったのに、どうしてここまで酷い音になったのだろうか?)。
音質だけではなく、演奏や歌唱力も粗く、勢いだけの様に感じる時もあった。しかし、それが逆にバンド演奏としての生々しさや力強さを感じさせたのも事実である。粗いながらも瑞々しく躍動感のあるサウンドであり、また、印象に残るメロディやリフも多くあったので、飽きる事無く聴く事が出来た。だからこそ『Campanula』発売後の翌年2015年に解散してしまった事が非常に悔やまれる。せめて、後2枚は彼女達の作ったオリジナル・アルバムを聴きたかった。
今、日本には女性のみのHR/HMバンドが多数いるが、その中でも群を抜いて印象に残るメロディを作る事が出来たバンドだと思う。
繰り返すが、粗くても、瑞々しくメロディに満ちた作品である。メロディに満ち溢れており、幻想的な曲もある。そのような作品が好きな方は是非聴いてほしい。
2020年現在、Albionの元メンバー達の活動を書いて締めくくる。
- ボーカルの百合はRakshasaというバンドで歌っている。
- ギターの華子はOctaviagraceとういバンドで活動している。
- ベースの祥はCrimson Flareというバンドで演奏している。また、キーボードの沙季と共にSobremesars(2020年1月解散)というバンドでも活動していた。
- キーボードの沙季はベースの祥と共にSobremesarsでボーカリスト兼キーボーディストとして活動していた。Sobremesars解散後の活動は不明。
- ドラムの莉乃はAlbion脱退後の詳細は不明。
個人的には、莉乃の詳細を知りたい。Albionで手数の多いドラム演奏をし、作曲にも多大なる貢献をしていた。莉乃が作曲した②(華子と共作)・④・⑤・⑧・⑨はメロディが印象に残り、それぞれ曲の世界観というのを強く持っている。これらの曲を聴けば莉乃にとても才能があるという事が分かるだろう。
莉乃は引退してしまったのだろうか? もしそうなら非常に残念である。復帰を望む。
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