DARK MOORはスペインのメタル・バンド。
初期はメロディック・スピード・メタルを演奏していたが、本作ではシンフォニックの要素があるメロディアス・ハードになっている。
『ARS MUSICA』は2013年にリリースした9thアルバム。
全13曲収録(日本盤ボーナストラック2曲含む)。
初回限定盤には5曲(ボーナストラック1曲含む)のボーナスCDが付いている。
私が聴いたのは初回限定版である。
バンドメンバー
- Alfred Romero:Vocals,Acoustic Guitars
- Enrik Garcia:Guitars
- Mario Garcia:Bass
- Roberto Cappa:Drums
[ゲストメンバー]
- Berenice Musa:Soprano Voice
バンドメンバーは前作『ANCESTRAL ROMANCE』と同じ。また、前作に続きTEARS OF MARTYRのBerenice Musaがゲストとして参加している。
各楽曲ごとの感想
DISC 1
①Ars Musica
2分強のインスト。オーケストラのみの演奏。
出だしはハープとストリングスで、静かだが少し不安な気持ちを誘う。その後、少しずつ展開をしていき、1:15からはホーンや打楽器も入って壮大な演奏となる。打楽器の連打が、まるで何かが迫って来る様な感じだ。
短い曲ながらも迫力があり、ツカミとしてはOKだと思う。
②First Lance Of Spain
お薦め曲!!
オーケストラ・サウンドが全体的に活躍しているややハイ・テンポの曲。
ただ、そのオーケストラ・サウンドは大仰な感じではなく、バンドとの演奏のバランスをしっかりとっているのが良い。また、ホーンのサウンドが曲を盛り上げるのに一役買っている。
激しくはないが、歌メロが印象に残りやすい良い曲だ。
③This Is My Way
お薦め曲!!
甘い音色のギターで始まるミドル・テンポの曲。
サビでのBereniceのソプラノボイスやコーラスがアクセントになっていて、曲をよりロマンティックにしている。メロディアス・ハードに近い曲だ。
シンプルな曲だが、聴きごたえがあり、歌メロも印象に残りやすい。
④The Road Again
お薦め曲!!
本作『ARS MUSICA』のリード曲。
疾走感があり、甘い音色のギターと、全体的に演奏されているキレのあるストリングスが特徴である。ただ、ギターよりもオーケストラ・サウンドの方が前に出ている様に感じた。
この曲でもBereniceのソプラノボイスがAlfredのボーカルと共に、サビを盛り上げている。
メロディアスであり、この曲も歌メロが印象に残り口ずさみたくなる。
⑤Together As Ever
この曲も甘い音色のギターで始まる。ミドル・テンポの曲だがAlfredは力強く歌っている。
清涼感を伴ったメロディアス・ハードの様な曲だが、2番のAメロにだけ少し激しめのギターリフが入る所があり、また、4:07~4:38はMarioがベースソロを弾いているので、それらの部分に「オッ」と思うかもしれない。
⑥The City Of Peace
出だしから疾走するバンドとオーケストラを聴く事が出来る。やや忙しい感じがする曲だ。
サビになると右側からホーン・サウンドが大きく響いてくる。
間奏ではEnrikのギターソロ(2:28~2:54)→Marioのベースソロ(2:54~3:02)→Enrikのギターソロ(3:03~3:07)とソロを引き継ぐ演奏が入っているのに耳をを傾けるだろう。
ギターソロはピロピロしているが、バックはあまりメタルっぽくはないのでメロスピの様には聴こえない。
歌メロは美しさよりも勢いの方が強いと思う。
⑦Gara & Jonay
お薦め曲!!
バラード曲。情感あるAlfredのボーカルとピアノで始まり、そこからドラムも入りバンド演奏へと展開し、オーケストラ・サウンドも入って曲を盛り上げていく。
この曲はAメロ→Bメロ→サビの様な流れの曲ではない。歌詞も❝Only you~❞が大部分で、後は❝We are the fire~❞の部分が少しあるだけだ。だから、ほぼ全てサビ(❝Only you~❞の部分)と言える。
因みにほぼサビで占められている曲というと、フランス版ミュージカル『ロミオジュリエット』(宝塚歌劇団も上演した)の「エメ」という曲を思い出す。
比べるのも変かもしれないが、決してお世辞でも誇張でもない。この「Gara & Jonay」は「エメ」に匹敵する程の素晴らしくて感動する曲である。
また、何回か書いているが、Alfredの歌声はバラード曲でより真価を発揮する。この曲を聴けばそれが分かると思う。
⑧Living In A Nightmare
やや不気味な出だしが特徴のハイ・テンポの曲。全体的に忙しなく、何かに急き立てられている様な演奏である。
Alfredはサビなると、ややオペラティックに歌っている。
前作『ANCESTRAL ROMANCE』に収録されている「Alaric De Marnac」を思い出す曲である。ただ「Alaric De Marnac」よりもメロディは印象に残りやすく、また、耳に馴染みやすい仕上がりになっている。
激しくも壮大なシンフォニック・メタルである。
⑨El Último Rey
メロウなミドル・テンポの曲。歌詞は全てスペイン語。
スペイン語が持つ独特の巻き舌を使ったAlfredの歌が強く目立つ。ただ、曲の展開やメロディはシンプルである。
メロディの質はまあまあと言ったところだが、ゆったりとしており、落ち着いて聞ける曲だ。
⑩Saint James’ Way
出だしのバンド演奏に混ざっているピアノの音が耳を引く、ややハイ・テンポの曲。
ノリが良く、歌メロも良い。
突出した様なのは感じられないが、安心感を感じる曲である。
⑪Asturias
スペインの作曲家兼ピアニストのIsaac Albénizのカバーである。オーケストラ・サウンドを大胆且つ壮大に取り入れたインストとなっている。
Enrikは出だしから曲の終わりまで、ギターソロっぽいリフを奏でている。しかしギターよりもオーケストラ・サウンドの方が大きいので控えめに感じてしまった。ギターはリフもソロも音色がほぼ同じなので、少し単調になっている傾向がある。
もう少し音色を変えたり、音量の調整をなどをしたら、曲にメリハリが付いてより良くなったと思う。
⑫The Road Again (Acoustic Version)
日本盤ボーナストラック。EnrikのアコースティックギターとAlfredのボーカルのみの演奏である。
曲の長さは2分30秒程に短くなっていて、原曲と比べて小ぢんまりした感じがする。ただ、その分Alfredの息遣いがより分かる様になっていると思う。
ギターは左と右で、それぞれ別々の音色で違った演奏をしている。
アコースティックになっても良い曲だが、原曲より良いかというと正直そうでもない。理由は少々淡白過ぎる気がしたからである。ギターだけでなくヴァイオリンの演奏が入るだけでも、曲に緩急が付いたり、少し華が出たのではないだろうか。
⑬Living In A Nightmare (Orchestral Version)
日本盤ボーナストラック。名前の通りオーケストラのみの演奏である。
原曲もオーケストラが多用されていたので、大雑把に言えばバンド演奏とボーカルを除いたバージョンと言い換えても良いかもしれない。
オーケストラのみの演奏なので、原曲より荘厳な雰囲気になっている。ただ、原曲より曲の時間が長くなった訳ではないのに、間延びした感は否めない。
DISC 2(初回限定盤のみ)
①This Is My Way (Orchestral Version)
涼やかなストリングスから始まる。そこにホーンが重なる事によって音に厚みを持たせ迫力も出てくる。
ピアノの演奏がメインになっている部分もあり、緩急がある仕上がりだ。
原曲は甘い音色の曲だったが、このオーケストラ・バージョンでは荘厳になって、原曲と違う雰囲気になっているのが良い。
②Together As Ever (Orchestral Version)
基本的に清涼感があり、心地の良いストリングスが印象に残る。また、2:38~3:24は展開が起きホーンも活躍する。
この曲も原曲より荘厳になってはいるが、アレンジが少し単調な気もした。
③El Último Rey (Orchestral Version)
ストリングスよりもホーンやティンパニ、ピアノなどが目立っている曲だ。
Bメロになるとコーラスが、小さくだが入っていて、それがアクセントになっている。
サビではストリングスがメロディを奏でているが、この曲では全体的に縁の下の力持ちという感じを受けた。
④First Lance Of Spain (Orchestral Version)
他のOrchestral Versionでは、ストリングスがサビのメロディを奏でていたが、この曲ではそれをしていない。
原曲がややハイ・テンポだった事もあるが、勢いがあり力強い演奏をしている。そこに時折入る心地良いピアノの音色が曲にアクセントを加える役割を果たしている。
⑤Bohemian Caprice
日本盤ボーナストラック。ピアノとエレキギターのみのインスト。正直あまりパッとしない曲である。
ピアノとエレキギターの、それぞれの音の空気感が噛み合っていない気がする。何故なら、ピアノは軽やかだが、少しこもった音色であるのに対して、エレキギターはひずんではいるがこもっていない音色だからである。
それだけが原因ではないと思うが、とにかく中途半端な感じだ。
Disc2はOrchestral Versionの曲を入れてるのだから、この曲もオーケストラ風にするか、そうでないならバンド演奏にするかなどにして振り切った方が良かったのではないかと思う。
全体的な感想
シンフォニック要素のあるメロディアス・ハード・ロック寄りのサウンドとなっている。ただ、どの曲にもオーケストラ・サウンドが入っているのでシンフォニック・メタルと言っても差し支えないかもしれない。
過去作のオーケストラ・サウンドと比べると、力強さや迫力は減退したが、その分優雅さ・メロウさを感じるサウンドになっている。そのサウンドがバンド演奏(特にEnrikの甘い音色のギターと、Alfredのハスキーなボーカル)と相俟って落ち着いた心地の良い音になっている。
Elisa C.Martinのいた時代やAlfredが加入したばかりの時の様な、キラキラした音や勢いは無いがメロディの質は保っている。特に②~④は歌メロが強く印象に残る曲だと思う。また、ほぼサビのバラード曲⑦も強力な曲だ。盛り上げ方が秀逸で、Alfredの本領が発揮出来ているのが頼もしい。
また、初回限定盤に付いているボーナスディスクだが、ボーナストラックを除いてDISC①から選んだ4曲がオーケストラ・バージョンで収録されている。どの曲もストリングスやホーンが活躍し、荘厳且つ迫力のある演奏になっている。
しかし、アレンジが単調な傾向があり、もう一捻りほしかった所だ。厳しい言い方をするなら原曲をオーケストラ風にしたカラオケ・バージョンの様にも思えてしまった。1曲1曲は良くても連続で聴くと緩急に乏しく、どの曲もほぼ同じ音の厚みに感じてしまい、それにより悪い意味で「お腹一杯」の気分になってしまう。
先に書いたが、もう一捻りアレンジを加えるか、2分台ぐらいに短くして凝縮すれば、より良くなったのではないかと思う。
本作『ARS MUSICA』は全体的にメタルの要素は薄い。音も柔らかめで、鋭さや重さは無い。また、華美な要素は過去作と比べて減退し、ギターの音もやや地味になっているので、少し物足りなく感じる人もいると思う。ただメロディの質は高いので、メタルが好き・嫌いに関わらず聴いてほしい。特にメロディアスな曲が好きな人なら聴いて損はしないと思う。
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