スペインのメロディック・スピード・メタル・バンドが2003年にリリースした4thアルバム。バンド名をそのままアルバムのタイトルにした作品。
全13曲収録(日本盤ボーナストラック1曲含む)。
バンドメンバー
- Alfred Romero:Vocals
- Enrik Garcia:Guitars,Choirs
- José Garrido:Guitars,Choirs
- Anan Kaddouri:Bass
- Andy C.:Drums
[ゲストメンバー]
- Isabel García:Pianos,Keyboards
- Mamen Castaño:Choirs
- Beatriz Albert:Soprano Voice(Track 6,10,12),Choirs
EP『BETWEEN LIGHT AND DARKNESS』リリース後、大幅なメンバーチェンジが起きた。ボーカルのElisa C.Martin、ギターのAlbert Maroto、ドラムのJorge Sáezは音楽性の違いで脱退した。この3人はその後、DREAMAKERというバンドを組んでデビューした。
DARK MOORは新メンバーとしてAlfred Romero、José Garrido、Andy C.を迎え入れた。この体制後、シングル『From Hell』をリリース、そして今作『DARK MOOR』を発表した。
ゲストのうち、Mamen Castañoは当時ARWENにいた女性ボーカリストであり、José Garridoと共に活動していた。
各楽曲ごとの解説と感想
①A Life For Revenge
荘厳だが、やや気の抜ける感じもするコーラスから始まるミドル・テンポの曲。
ヘビーなギターのリフが目立つ曲である。ギターソロはあまりピロピロせず、シンプルな演奏をしている。キーボードも必要最低限の演奏という感じだった。Alfredの線が細く高いボーカルが耳に残る曲である。
しかし、琴線にはあまり触れない曲だった。
②Eternity
チェンバロの音で始まり、それにギターソロと共にバンドが続いて演奏する疾走曲。
2:15~3:15の間奏ではギターソロの掛け合いや、そこにキーボードの演奏も絡んだりするが、鮮やかさはあまりない。バックの演奏がヘビーで、キーボードも必要以上に弾いてないというのも理由にあると思うが、もう少し派手にクドくしても良かったのではないかと思う。
③The Bane Of Daninsky,The Werewolf
スローなギターのリフと、やや不気味なキーボードの演奏で始まるミドル・テンポの曲。
この曲はメロディがあまり冴えない感じを受けた。印象に残ったのは1番のAメロで、Alfredがやや裏声になる程の高い声で歌っていた事と3:26~4:22のギターソロである。3曲目にしてようやく、メロスピの香りがするギターソロが聴けた。
曲としては悪くは無いが、良くもないというのが正直な感想である。
④Philip The Second
展開が非常に多いミドル・テンポの曲。冒頭の0:11~0:36ではギターソロを弾いている。
スリリングな展開があり、琴線を揺さぶるメロディも多少はある曲だ。しかし、どうにも「惜しい」感がしてしまう。もっとコーラスやキーボードを取り入れれば、華やかになり、曲をより印象的にする事が出来たのではないかと思う。
⑤From Hell
今作『DARK MOOR』のリリース前に、シングルとして発売されていた曲。
あんまり迫力の無い「ウワァ」というデスボイスとギターの速弾きで始まるアップ・テンポの曲だ。
歌メロは印象に残りやすく、ノリも良い曲なのでライブでは盛り上がるであろう。また、Alfredが力強く歌唱しているのが気持ち良く感じる点と、1:15~1:36でのコーラス隊も活躍する歌メロがアクセントになっている点が、特に良いと思う。
⑥Cyrano Of Bergerac
男性コーラスから始まる展開の多い曲。基本的にミドル・テンポだが、時折疾走感になる部分もある。
Aメロの女性コーラスが不気味さを感じる歌い方をしている。この曲は4:02~5:28の間は雰囲気ががらりと変わる。この間で歌っているのはAlfredではなく、ゲストのBeatriz Albertであり、オペラティックな歌唱をしている。コーラス隊も重なり、シンフォニック・メタルっぽくなり、曲が盛り上がる。
7分30秒程の曲だが、印象に残るメロディや展開が多いので冗長さは無い。
⑦Overture
インスト。バンド演奏ではなく、オーケストラの演奏である。
荘厳な雰囲気があり、低音の弦楽器の響きが演奏をしっかりと支えている。また、ヴァイオリンや管楽器の音色が曲にメリハリを付けている。
しかしメロスピ風の音色ではないので、クサさは無い。
⑧Wind Like Stroke
急き立てる様なコーラスで始まる疾走曲。この出だしのコーラスのメロディはサビでも歌われ、殆ど同じメロディである。Alfredはコーラスと共に、高い声で叫ぶ様に歌っている。
1番のAメロと2番のAメロはメロディが異なるが、全体的に歌メロは覚えやすい方だと思う。ノリも良い感じだ。
2:44~3:56の間奏にはギターソロが入っており、やや甘い音色だが、あまりピロピロ感は無い。
⑨Return For Love
スローでヘビーなギターリフから始まる曲。バラードではないがゆっくりした感じだ。曲の構成は他曲と比べて、シンプルな感じがした。他の曲にも該当するが、キーボードは本当に最低限の演奏である。その為、メロスピ的なのを求める人には、好まれないかもしれない。
演奏はタイト且つストレートな曲であり、派手さは無い。しかし、DARK MOORの新たな一面を見る事が出来る曲だと思う。
因みにこの曲はそのまま次の曲の「Amore Venio」に繋がる。
⑩Amore Venio
「Return For Love」から繋がったまま始まる。バンド演奏ではなく、ストリングスとコーラスのみである。
コーラス隊は「ラララララ~」という歌唱をしているが、このコーラスが迫力がない。一部の人が鼻にかかった様な、気の抜ける様な声で歌っているのだが、それが原因かもしれない。
ストリングスのみの演奏だったら、緊迫感がありつつも、高貴な雰囲気を保てたのではと思う。
⑪The Ghost Sword
出だしから10秒程で速弾きのギターが聴ける疾走曲。バンドの演奏はヘビーでタイトな演奏だ。そこにキーボードが曲を輝かせ盛り上げる為に、所々に装飾的な感じで活躍している。
また、この曲は途中でRecitation(「暗唱・朗唱」という意味)の部分があるのが特徴だと思う。それは唸るような声で語っている(Enrikの声か?)
ただ、メロディという点では正直印象が弱く、盛り上がりに欠ける気がした。
⑫The Dark Moor
8分半程のミドル・テンポの曲。出だしはダークなファンタジー映画で使用されそうな演奏をしている。展開が非常に多く、コーラスを多用しており、時々デスボイスも出てくる曲だ。
また、ゲストボーカルのBeatriz Albertがこの曲でも参加しており、曲にメリハリを付ける役目をしている。
肝心のメロディだが、悪くはないけれど良くもないというのが正直な感想である。格段に美しいメロディや盛り上がる様なメロディがある訳ではない。荘厳な雰囲気はあるが、琴線には触れない曲だ。
因みに歌詞の中に1st~3rdのアルバムのタイトルにもなった❝Shadowland❞、❝The Hall Of The Olden Dreams❞、❝The Gates Of Oblivion❞が出てくる。
⑬The Mysterious Maiden
日本盤ボーナストラック。
ほぼ全編で演奏される悲しげなピアノの演奏が特徴のバラード曲。ギターはスローでシンプルなリフを奏でている。そのリフがまた、暗くヘビーな音色である。
Alfredは高らかに感情を込めて歌っており、悲しさが表現されているともう。Alfredの声は、線は細いがそれが逆に、この曲に良い効果をもたらしている。
演奏についてだが、大仰な装飾や豪華さは無い。しかし、ダークな演奏の中にも印象に残るメロディはある。
全体的な感想
2nd『THE HALL OF THE OLDEN DREAMS』や3rd『THE GATES OF OBLIVION』と比べると、ギターのリフがヘビーで硬い音になっている。キーボードは以前なら豪華な装飾音が沢山入っていたが、今作では必要最低限の音しか入っていない印象を受けた。また、ギターやキーボードの演奏で琴線を揺さぶるメロディが少なかった。そこは正直残念である。
また、ボーカルが変わったが違和感は無い。しっかりバンドの音に馴染んでいるので、「もしElisaが歌っていたらなぁ…」という思いにはならなかった。新加入のAlfredの声は線が細く高めなので、迫力に欠ける部分が多少あるかもしれない。しかし、それが逆にバンド全体の音をヘビーにしすぎない様にしている気がする。もし、このサウンドで雄々しい声質の人が加入していたら、完全に別のバンドになってしまっていたのではないだろうか。
この頃のAlfredは、まだ歌の感情表現が単調な所はあるが、⑬の様なバラードでは上手く表現出来ていると思う。
全体としては良くも悪くもない作品だと思う。ただ、2ndや3rd、また6th『TAROT』を聴いた人が、今作『DARK MOOR』を聴くと、琴線を揺さぶるメロディや劇的な展開が少ないので、物足りなく感じると思う。それは今作で初めてDARK MOORを聴く人にも共通するだろう。
バンド名をアルバムのタイトルにしたのだから、自信作であり、「この新体制でやっていくんだ‼」という思いがあったのかもしれない。
確かに演奏技術は決して低くなく、むしろ引き締まって纏まった音になっている。だが、そこにDARK MOORの強みである琴線を揺さぶるメロディや、ドラマティックな展開をもう少し上手く取り入れていたなら、もっと良い作品になったのでないかと思ってしまう。
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