スペインのシンフォニック・メタル・バンドが2010年にリリースした8thアルバム。
全11曲収録(日本盤ボーナストラック1曲含む)
バンドメンバー
- Alfred Romero:Vocals
- Enrik Garcia:Guitars
- Mario Garcia:Bass
- Roberto Cappa:Drums
[ゲストメンバー]
- Berenice Musa:Soprano Voice
前作『AUTUMNAL』までベースを弾いていたDani Fernándezは『AUTUMNAL』のレコーディング終了後に脱退。新しいベーシストとしてMario Garcia(元SILVER FIST)が加入した。
ゲストのBerenice Musaはゴシック・メタル・バンド、TEARS OF MARTYRでボーカルを担当している。
各楽曲ごとの解説と感想
①Gadir
お薦め曲!
静かにゆったりとしたハープの演奏で始まる。そこにストリングスが少しずつ重なり、バンド演奏へと展開していく。全体的にシンフォニックだが、大仰にはなっていない。
Alfredは様々な声色(ソフトで優しい歌声、テノール歌手の様な歌声、力強い高めの歌声など)を使って歌いこなしている。
演奏は緩急が巧みであり、聴く者を引っ張っていっている。その為、歌メロも印象に残りやすい。
私が特に好きなのはBメロである。Aメロやサビよりも疾走感がある。返ってサビより盛り上がるのではないだろうか。
アルバム1曲目としての引き込みはOKだ。
②Love From The Stone
メロウな音色のギターが出だしに聴けるミドル・テンポの曲。
Bereniceのオペラティックな歌声が印象に残る。Alfredのソフトな歌声よりも目立っており、曲に荘厳さを与えている。
演奏はどちらかというと控えめで、AlfredとBereniceの歌声、そしてコーラスの方に重点を置いている気がした。
③Alaric De Marnac
ダークで不気味な雰囲気の演奏から始まる疾走曲。
オーケストラやキーボードの音色が、時折不安感を煽ってくるのが特徴だ。更に笑い声や叫び声まで収録されているが、これは正直迫力は無い。
歌メロだが良くも悪くもない。しかし、Alfredはサビではオペラ歌手の様に歌い、不気味な演奏も相俟って、オペラの1場面を観ている様な感じになったので、そこは良かった。
また、間奏の2:53~2:58と3:03~3:08は、短いながらもMarioのベースソロを聴く事が出来る。
④Mio Cid(邦題:ミオ・シド~我が誇りのシド)
重たい雰囲気のオーケストラから始まるミドル・テンポの曲。
オーケストラの演奏は緩急があり、曲に良い効果をもたらしている。しかし歌メロはイマイチである。その為か、正直冗長に感じてしまう。また、サビの時にドラムがドコドコしすぎている気がした。
ただ、コーラスの合いの手が入るBメロはやや盛り上がったので、そこは良かったと思う。
⑤Just Rock
最初に書くが、好き嫌い分かれる曲だと思う。タイトル通りの「ロックをしよう」という曲である。
出だしにハンドクラップが入っているという点で、DARK MOORにとっては新しい試みである。しかし、この曲でもオーケストラ・サウンドや、間奏では甘い音色のギター(1:46~1:58)も入っているので、その点は安心して聴ける。
ただ、「Just Rock」と言うなら、中途半端にシンフォニックな雰囲気にせず、もっと思いっきりR&Rサウンドにするなどして振り切ってほしかった。
正直、私はこの曲は好きでない。しかし今作『ANCESTRAL ROMANCE』の中では異曲として、逆に印象に残りやすいかもしれない。
⑥Tilt At Windmills
お薦め曲!
ピアノとオーケストラの物哀しい演奏から始まるミドル・テンポの曲。
Alfredのボーカルが哀愁を漂わせている。メロディも切ないが美しい。また、Bereniceのソプラノボイスが、曲をよりドラマティックにしている。
派手な曲ではないが、とても心地良く味わいがある。名曲だ。
⑦Canción Del Pirata(邦題:カンシオン・デル・ピラータ~ピラータの歌)
ホセ・デ・エスプロンセダというスペインの詩人の詩が歌われているとの事。
歌詞が全てスペイン語なので、スペイン語のメタルを初めて聴く人は新鮮に聴こえると思う。
疾走曲だが、正直特別に盛り上がる曲ではない。メロディも悪くはないが、良くもないという印象を受けた。
⑧Ritual Fire Dance
インスト。マニュエル・デ・ファリというスペインの作曲家のカバー曲である。
原曲に忠実でありつつ、原曲の持つドラマ性のある展開を、より躍動的に演奏している。
Enrikのギターソロが、攻めているかの様に前面に出ているのが良い(1:04~1:10、2:59~3:05)。ただ、その後小さくなってしまうが・・・。
因みにギターソロは他の箇所でも弾いており、曲をとても盛り上げている。
⑨Ah! Wretched Me
まずストリングスとMarioのベースのタッピングから始まる事に「おぉ!」と思うであろう。
ミドル・テンポだが、今作の中で1番ヘビーな曲である。Enrikのギターリフが前面に出ている。
3:29~4:23の間奏では、メロディアスで甘い音色のギターソロが印象に残る。また、この間奏のうち、3:43~3:56はMarioの速いベースソロが組み込まれている。Marioが活躍しているのが分かると思う。
ただ、歌メロは少し弱かった。
⑩A Music In My Soul
お薦め曲!
バラード・ソング。
やはりAlfredはバラードの様な曲での歌の表現が上手い。温かみのある声質で、聴く者を包み込む。それだけでなく、繊細な感情表現も見事である。
因みにAlfredはこの曲ではハスキーになったり、パワフルになったりと、表現を変えながら歌っている。
バンドやオーケストラも、歌を活かした演奏をしていると思う。
⑪E Lucevan Le Stelle (邦題:エ・ルチェヴァン・レ・ステッレ~星は光りぬ)
お薦め曲!
原曲はイタリアのクラシック/オペラの作曲家、ジャコモ・プッチーニが手掛けたオペラ『トスカ』の第3幕で歌われているアリアである。
オーケストラとEnrikのギターをバックに、Alfredがテノール歌手並みの歌声を発揮している。温かみと伸びのある歌声がとても良い。メタル歌手よりオペラ歌手の方が向いているのではと思ってしまう程だ。
この選曲はバッチリである。因みに、このカバーでは前奏は原曲と比べて短くなっている。
全体的なレビュー
前作『AUTUMNAL』に続き、オーケストラ・サウンドが全体的に入っている。ただ前作よりは控えめになっており、大仰な印象はあまりしない。
この『ANCESTRAL ROMANCE』はAlfredのボーカルに焦点を当てている気がした。また、Alfredは低音から中音が魅力的な歌声なので、その辺りを活かされている作品であろう。
Enrikは3rd『THE GATES OF OBLIVION』の頃までの様に、ピロピロした速弾きのギターソロは殆ど弾かなくなっている。しかし、その分趣のあるサウンドになっている。
ただ、琴線を揺さぶる様なメロディは少し減退している気がする。以前よりも心にグッとくるサウンドが感じられない。勿論、①②⑥⑧⑩の様に、良いメロディを持った曲はある。だが、私にはどうしても物足りなく感じてしまう。
とはいっても、今作『ANCESTRAL ROMANCE』は決して悪いわけでない。
その為、初めて聴く人には勿論お薦めは出来る。ただ、過去の作品を聴いた人にとっては「良いんだけど・・・」と思う人も出てくるかもしれない。特に⑤を聴いたら「???」となるのではないだろうか。
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