皆様こんにちは、霜柱です。
長嶋有さんの『ぼくは落ち着きがない』(光文社文庫)を読みました。

今回はこの本の感想を書いていこうと思います。
感想
起承転結は・・・
今作の舞台は高校の図書室です。ここが完全にメインの場となっています。主人公の望美は図書部員で、他の部員と一緒に高校生活を過ごしている事が描かれています。
ただ、ここで何か特別な事件や怪奇現象などが起きる訳ではありません。
「おぉ! 一体どういう展開になるんだろう⁉」「手に汗握るぜ!」「楽しくて面白い!」みたいな思いは恐らく抱かないでしょう。
私は図書部員になった事は無いので分かりませんが、恐らくこの本に描写されているのは、スペシャルな事ではなく、ごくごくありふれた高校の日常が描かれていると感じました。
なので、起承転結にはあまり富んでいないです。
登場人物もごく普通
主人公の望美を始めとして、今作に登場する人物は全員ごく普通で平凡です。何か特別な能力があったり秀でている訳ではありません。
ですが、だからこそ殆どの登場人物に親近感を抱いたのも事実です。「あぁ、私の学校にもこういう人はいた」と言える様なキャラクターばかりなのです。
何も特別な事は起きない。
それゆえに、読み終わった後は「確かにこの頃は他愛もない話で盛り上がっていたな」とちょっと懐かしくなってしまいました。
ですが、今ではそういった話をする相手が私にはいません。仮に当時のメンバーに会ったとしても、当時と全く同じ気持ちや感情を再現は出来ないでしょう。社会に出てしまうとやはり良い意味でも悪い意味でも大人になってしまうのです。
あの頃でないと、決して味わう事が出来ないごく普通の日常、しかしとても輝いていた日常。
そういう日々を自分は送っていたんだな、と改めて痛感しました。
気になった登場人物
先に書いた様に登場人物は皆ごく普通です。その中でも気になった人物を軽く書いていこうと思います。
- 片岡哲生・・・よく図書室に本を借りに来る男子生徒。図書部員の間でも「あの人、沢山本借りるよね」と話題になっています。実は今作で片岡哲生に関する事が出てくるのですが、物語の進行には一切関係無い感じです。
- 菱井琴子・・・図書部員からインタビューされる女子生徒。三井のリハウスに出てきそうな美少女らしい。ただ、出番は前半にちょこっとだけです。そういう人物ならもっと登場させてほしかったなぁ(笑)。
この2人が良いスパイスになっていた気がします。
印象に残った言葉
今作を読んでいて印象に残った言葉があるので引用します。
この世の中の人は、誰もがただ会話するだけでも芝居がかる。即興で「キャラを演じる」。役割の中でボケたり、ツッこんだりもする。
部室の皆だけでない、誰もがテレビや本や、あるいは先人たちのふるまいや、それぞれの心の中に降り積もった情報を参照して、言葉を外部に発しているんだ。
本当にその通りです。「あの人って面白い性格だよね」「この人は真面目そうだな」「あいつは不良っぽい」などなど、人の性格や性質は千差万別です。誰1人として自分と全く同じ人はいないでしょう。
ですが、もしかすると「自分はこういう人だ」と言っても、それは作られた人物像の可能性があります。
だからと言って、それが自分自身ではないという訳でもないと思うのです。そういったのも含めて、自分自身なのかもしれません。
まとめ
先に書きましたが、何かとんでもない事が起こる訳ではありません。登場人物も身近にいそうな人達ばかりです。
「とても面白い!」と言える作品ではないですが、だからこそ、自分の青春時代を等身大に振り返れた気がします。
肩肘張らずに、むしろ弛緩した状態で読んだ方が却って良いかもしれません。