皆様こんにちは、霜柱です。
安部公房の『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』(新潮文庫)を読みました。

今回はこの本を読んだ感想を書いていこうと思います。
感想
未発表・未再録の作品集
私は学生時代、安部公房にとても嵌まっており『壁』『砂の女』『箱男』『カンガルー・ノート』など色々読んでいました。
しかし、まさか初期の未発表・未再録の短編集が出ていたとは知らなかったです。なので見つけた時は何の迷いも無く購入しました。
本作は安部公房のデビュー前後の作品が収録されています。ファンならとても喜ばしい気持ちで一杯になるでしょう。
既に発表されている作品と比べると、粗削りな部分はありますがそれでもしっかりと「安部公房ワールド」を堪能出来ます。
最初に収録されている「(霊媒の話より)題未定」から惹き付けられた事は言うまでもありません。
初心者には向かない
ずっとワクワクした気持ちで読んでいました。中には未完で終わってしまった作品もあるので、「完成したら一体どんな展開になっていたんだろう? 完成した作品が読みたいぞー!」と叫びそうになった程です(笑)。
他の人にもお薦めしたいですが、本作で安部公房の真髄を味わえるかと言われたら「NO」だと思います。決して悪くは無いけれど、「まだまだこれから」という段階だと言えるでしょう。なので、初めて読む人には向かないと私は思います。
安部公房の作品を何冊か読んで、且つ虜になった人が読んだ方が本作に感銘を受ける気がします。
各作品の感想
本作には11の未発表・未再録の作品が載っています。
簡単に作品ごとの感想を書きます。
(霊媒の話より)題未定
先にも書きましたが出だしから惹き付けられました。安部公房節が出ています。
特に途中で詩が出てきたり、人を騙している主人公が幻聴に苛まれている所はインパクト大でした。
しかし、それにしてもこの主人公は物真似がかなり上手い様ですね。もし令和の今なら、物真似芸人としてブレイク出来たかもしれません。
安部公房は19歳でこの作品を書きましたが、その年齢で書けるのが凄いです。この時点で既に作家としての輝かしい片鱗が出ていたと断言して良いでしょう。
老村長の死(オカチ村物語(一))
オカチ村は東北の村という設定です。具体的な場所は書いていないとは言え、わざわざ東北と設定した事に意味があるのでしょうか?
主人公の老村長というのが完全な亭主関白で、威張り散らしているんですね。こんなのがもし父親だったら地獄と言えるでしょう。しかも、自分が奥さんに言った事もちゃんと覚えていない様ですし。
最後の結末はビックリでした。巡査の息子が関わっていた様ですが具体的な事が書かれていないので、却って不気味さが増しました。
ところで(一)という事は続きがあったという事でしょうか?
老村長が死んだ後、どの様な展開になっていたのか気になります。
天使
正直に申し上げると、この作品はあまり印象に残りませんでした・・・。
第一の手紙~第四の手紙
最初はあまり展開がありませんが、後半から話が進み始めます。だからこそ「えっ⁉ ここで終わっちゃったの⁉」という気持ちで一杯になりました。
どうして未完にしてしまったのでしょうか?
白い蛾
他の作品とは一線を画す気がします。
船長は穏やかな人ですが若い時は違っており、怒りっぽくて我儘だった様です。しかし船の中に入ってきた白い蛾を見つけてから変わっていきます。
特に1枚の花弁に白い蛾が止まっている描写は美しくて儚げでした。
悪魔ドゥベモオ
この作品に限りませんが、安部公房の作品には登場人物が何者なのか明確ではない事がよくあります。
主人公の加地伸、彼の息子、ドゥベモオという悪魔が一体どういう人物なのか謎めいているのです。主人公は以前は文部技官でしたが、今はどうなっているのか不明です。
息子は殆ど喋らないですし・・・、というより本当に息子なのかも疑問に感じてしまいました。
また、悪魔であるドゥベモオも本当に悪魔なのか? 実は主人公が作り出した幻影の様な気もします。
でも、だからこそ面白かったと言える作品でした。
憎悪
正直、この作品はよく分かりませんでした(笑)。
タブー
主人公の画家と、隣に住んでいる老彫刻家が実は・・・という展開でしたが、ちょっとベタに感じてしまいました。
しかし、短編ではなく長編だったらまた違う印象になっていたかもしれません。
虚妄
あぁ、いつの時代も男女関係の問題ってあるんですなぁ。
登場する女性が決して笑わなかった事が問題だったようですが、仮に笑ったら男達の態度や、その後の展開が変わったりしたのでしょうか?
いや、こういう男達は何かしらいちゃもんを付けると相場が決まっています(笑)。
鴉沼
まず、この題名は何と読むのでしょうか?「カラスヌマ」「ウヌマ」という風に読めそうですが、解題を担当した加藤弘一さんによると「アショウ」が良いと思う、との事。
第2次世界大戦後の様子が書かれています。
書き方や雰囲気は違いますがハンス・エーリヒ・ノサックの「滅亡」を彷彿とさせました。
キンドル氏とねこ
「S・カルマ氏の犯罪」と関連する話です。
読んでいて「アクマ」「カルマ」という文字が出てきた時は嬉しくなりました。
ただ、残念ながら未完です。未完なのが本当に悔やまれる作品です。この作品は是非とも完成させてほしかったです。
まとめ
デビュー前後の作品集ですが、殆どが輝いており、この時点で既に非凡であると私は断言します。
本当に面白くて興味深い作品集でした。安部公房の小説が好きだという人は躊躇わずに読んでほしいですね。
ただ、先に書いた様に本作は『壁』『砂の女』『箱男』『他人の顔』といった代表作を読んでからが良いでしょう。
その方が本作の醍醐味をより満喫出来ると思うからです。