スペインのメロディック・パワー・メタル・バンドが2005年にリリースした5thアルバム。
全12曲収録(日本盤ボーナストラック1曲含む)。
※前作の4th『DARK MOOR』迄はメロディック・スピード・メタル・バンドと紹介していたが、音楽性が少し変わったと思ったので、今作からはメロディック・パワー・メタル・バンドとする。
バンドメンバー
- Alfred Romero:Vocals,Choirs,Acoustic Guitars
- Enrik Garcia:Guitars,Guttural Voice
- Dani Fernández:Bass
- Andy C.:Drums,Piano
[主なゲストメンバー]
- Mamen Castaño:Choirs
- Nacho Ruíz:Choirs
- José Garrido:Choirs
- Kiko Hagall:Choirs
前作『DARK MOOR』で演奏していたベーシストのAnan KaddouriとギタリストのJosé GarridoはDARK MOORを離れた。
脱退した理由だが、Ananは家庭の事情により、音楽界から離れなくてはならなくなった。Joséは自身のバンドARWENの一員としても活動していたが、DARK MOORとの両立が難しくなり、ARWENに集中するためにDARK MOORを離れた。2人とも友好的な脱退だったとの事である。
因みに2人目のギタリストは入れず、ギタリストはEnrikのみの体制となった。
尚、JoséはDARK MOORを抜けたが、ARWENのメンバー(当時)であるMamenとNachoと共に、コーラスとして参加している。
また、同じくコーラスを担当しているKiko Hagallはスペインのメタル・バンド、BEETHOVEN R.やINNTRANCEのボーカリストとして活動していた。
各楽曲ごとの解説と感想
①Before The Duel
名曲である。
神秘的なストリングスを含むバンド演奏で始まる、ややハイ・テンポの曲。幻想的なキーボードが全体的に演奏されている。ピロピロ感は少ないが、琴線を揺さぶるギターソロは出てくる。
Alfredの感情豊かな歌も相俟って、この曲をドラマティックにしている。バックの演奏も適度なヘヴィさを保っている。歌メロも美しく印象に残りやすい。
②Miracles
この曲も名曲である。
海の波の音と、悲しげで暗めなピアノから始まるミドル・テンポの曲。
Alfredの低音から高音まで操る繊細な表現が、この曲でも発揮されている。2番のサビの後にはコーラス隊の歌唱や、Enrikのガテラルも出てくる構成になっているので聴き所が多い。
3:53~4:23ではギターソロで速弾きする所もあるが、それよりも1音1音に感情を込めて弾いている印象を受けた。
成熟したメロディック・メタルという感じである。
③Houdini’s Great Escapade
暴走ロックンロール的な激しい始まり方に驚かされる疾走曲。DARK MOORの中では珍しいタイプの曲だと思う。
ギターの激しいリフが耳に残る。しかし、そこに神秘的なキーボードが弾かれているので、DARK MOORらしさは失われていない。
歌メロは美しさよりも、ノリを重視している。ただ、Bメロは美メロだと思う。
④Through The Gates Of The Silver Key
50秒程のインスト。オーケストラ風の曲である。シンプルだが、重厚感や荘厳感がある曲だ。
⑤The Silver Key
ストリングスが全体的に散りばめられているミドル・テンポの曲。
Enrikは冒頭や1番のサビの後、4:15~5:36でギターソロを沢山弾いている。もう少しギターにピロピロ感やキーボードを派手にしたら、2nd『The Hall Of The Olden Dreams』や3rd『The Gates Of Oblivion』に入っていてもおかしくない曲だと思う。
ただ、そうしなくても充分にドラマティックな曲である。
⑥Green Eyes
名バラード曲である。
メランコリックなバラード曲である。出だしの柔らかいギターの音を聴いていると、身体が溶けてしまいそうになる。
Alfredの歌唱が、切なく悲しげで印象に残る。他曲でも感情表現が上手いが、特にバラード曲の方がより精緻な表現が出来ていると思う。
アコースティックギターも多用しており、そのサウンドも相俟って、心が浄化される様な気がする。
唯一気になったのは、サビになるとEnrikのガテラルが少しだけだが、入っている事である。正直、この曲でガテラルはいらない。しかし、それでもこの曲が名バラードである事は間違いないだろう。
⑦Going On
ノリの良いHR的な、ややハイ・テンポの曲。しかしメロディが減退していたり、ノリが良いだけの曲という訳ではない。幻想的なキーボードが全体的に入っており、Enrikのギターソロもある。ノリとメロディのバランスが取れた曲だと思う。
⑧Beyond The Sea
ドラマティックなミドル・テンポの曲。4分弱の曲だが、その中にしっかりと起承転結を凝縮している。その為、曲が終わるともう1回聴きたくなってしまう。
BメロでのEnrikのガテラルや、サビでのコーラス隊の歌唱も上手く取り入れている。更にストリングスが曲を盛り上げるのに一役買っており、壮大感をも感じる曲に仕上がっている。
⑨Jurius Caesar
2分20秒程のインスト。この曲も④と同じくオーケストラ風の曲である。
④と似た様なメロディがこちらの入ってるのは意図的かは分からないが、こちらの曲はハープの音も入っており、優雅さを感じる。
短い曲だが、展開が多く、豪華なので単なる小曲にとどまらない。
※Jurius Caesar(ユリウス・カエサル)とは、紀元前のローマ時代に活躍した政治家・軍人である。
⑩Alea Jacta
⑨と繋がりのあるミドル・テンポの曲。
この曲もストリングスを用いて、曲をドラマティックにしている。メロディは流れる様な感じで、曲全体の音が柔らかめで、聴いていて心地が良い。
途中(2:04~2:40)でAlfredとコーラス隊との掛け合いが、少しあるのがポイントだ。
※タイトルの「Alea Jacta」は「Alea Jacta Est」という古典ラテン語であり、「賽は投げられた」という意味である。その言葉を言った人物が前曲⑨のタイトルとなった「Jurius Caesar」だ。
⑪Vivaldi’s Winter(邦題:四季(冬))
イタリアのクラシックの作曲家、アントニオ・ヴィヴァルディの曲のカバーである。ストリングスを多用したバンド演奏になっている。
メタル・バンドがクラシックの曲をカバーすると、必要以上に技巧的になったりするが、この曲の場合はそうなっていない。
Enrikはギターソロを弾きまくっているが、必要以上に技巧に走っておらず、原曲の持ち味を活かしている。
原曲の持つメランコリックさと、DARK MOORの持つ音楽性が合っているという事が分かるだろう。
⑫Innocence
日本盤ボーナストラック。メロディックなミドル・テンポの曲。
この曲の特徴はキーボードの音色が少し違う所である。他曲の様にストリングス風の音色はあるのだが、ダンサブルなデジタル風の音色も出てくる。しかし、頻繁に演奏される訳ではないので、それを除けば他曲と比べて特異な所は無い。
曲自体は4:02で終わる。しかし無音が暫く続いた後、隠しトラックとして「Encuentro」という曲が収録されている。ピアノのみの演奏で、強弱を付けながら、物悲しいメロディを弾いている。
ただ、1人で聴いていると落ち着いた気持ちになれるかもしれない。
全体的な感想
今作『BEYOND THE SEA』は、何回も繰り返し聴く事によって、味わいが出てくる作品である。最初聴いた時は、正直あまりピンとこなかった。どの曲も曲調が似たり寄ったりしているし、2nd『THE HALL OF THE OLDEN DREAMS』や3rd『THE GATES OF OBLIVION』の様な輝かしい音ではない。
しかし、DARK MOORの持つ美しい旋律やドラマティックな展開が無くなった訳ではない。ストリングスを多用しており、琴線を揺さぶるギターソロはしっかりと入っている。それに以前よりも1音1音に、より感情移入している演奏をしている様に思えた。
また、Alfredの繊細で豊かな歌声も、この作品をより叙情的にしている。前作『DARK MOOR』を聴いた人なら分かると思うが、前作では主に線が細い高音で歌っていたのである。その作品での感情表現は単調だったが、今作『BEYOND THE SEA』では大きく成長している。
音域は、高音よりも主に中音で歌っている。その為、前任のボーカリスト、Elisa C.Martinを思い出す人もいるかもしれない。ややElisaを彷彿とさせる部分があるからである。私も「Elisaだったら、こう歌っていたのかな・・・」なんて思ったりもした。しかし、それを含めても、今作が感情を揺さぶる豊かなメロディを持つ作品である事に変わりはない。
先に書いた様に1回聴いただけでは良さは分からない。どうか、何回も聴いて、円熟味を増した今作『BEYOND THE SEA』という世界に浸ってほしい。
お読み頂き有難うございました。ブログ村に参加しています。
にほんブログ村