皆様こんにちは、霜柱です。
私は先日『鴛鴦歌合戦』の感想を書きました。
その感想を書いてから大分遅くなりましたが、今回はこの作品の役ごとの感想を書いていこうと思います。
役ごとの感想
浅井礼三郎:柚香光
長屋住まいの貧乏浪人の役。
いやぁ、もう言わずもがな本当に絵になります。どの様な格好をしても似合い過ぎて声が出ません。
お春やおとみに振り回されている姿は可愛らしかったですが、物語の終わりの方で立ち回りをする場面は息を呑む格好良さが滲み出ていました。
ただ、役柄自体はそんなに格好良いという訳ではありませんし、宝塚のトップスターが演じる様なキャラではないかもしれません。しかし、柚香さんが演じると・・・何故か素敵になってしまうのです。
この作品が柚香さんの代表作になるかは意見が分かれると思いますが、それでも見事に長屋住まいの貧乏浪人の役を見事に演じ切っていたと断言して良いでしょう。
お春:星風まどか
志村狂斎の娘で、礼三郎の隣家の役。
お春のキャラは何となく『はいからさんが通る』の花村紅緒に似ていると思いました。主人公の事が好きなのに素直になれない所とか、気が強い所とか。
性格はおきゃんですが同時に陰キャでもある気がしました。
今作で気付いたのは星風さんの声質がいつもと違っていた事です。ちょっとアニメ声に寄せている気がしました。
ただ、決して不自然だったり大仰だったりした訳ではありません。その様な声質で喋っていた事により、お春の心情がより伝わってきたと思います。
また、今作では星風さんがコメディエンヌとしても縦横無尽に活躍していました。
星風さんは歌・演技・ダンスの3拍子が揃った実力派ですが、「星風さんはこの様な演技や声を出す事が出来るのか!?」と驚きました。
2024年5月26日付で宝塚をご卒業される事を発表しましたが、まだまだ色々な顔を魅せる星風さんには天晴れと言う他ありません。
やはり長期のトップ娘役としてご活躍するだけの事はあると言えるでしょう。
『アルカンシェル』ではどの様な姿を魅せるのか? 今から楽しみです。
峰沢丹波守:永久輝せあ
花咲藩藩主で、蓮京院の息子、秀千代の兄の役。
見た目はシュッとした格好良い殿様という感じです。
しかし、実際は藩の財政が厳しいにも関わらず、骨董品に現を抜かしているバカ殿ですが、それでもどこか憎めないキャラとなっています。
良い意味で緊張感の無い雰囲気が出ており、峰沢丹波守が舞台に登場するとその場が明るくなった気がしました。
ただ、先に憎めないキャラと書きましたが、これはあくまで舞台を観ている時の話です。もし実際にこの様な人が職場にいたらゾッとするでしょう(笑)。
現代なら「あの無能な上司を何とかして下さい!」と沢山の部下から訴えられて、会社側から左遷の命令が下されていると思います(笑)。
完全に陽に振り切ったこの役を永久輝さんは緻密に演じていました。
蓮京院:京三紗
丹波守・秀千代兄弟の母親、山寺の尼僧の役。
出番はあまり多くありませんが、存在感は抜群でした。
短い場面の中でもしっかりと舞台を引き締めており、最後の場面では重要な役割も果たしていました。
ネタバレになりますが、実は蓮京院は礼三郎の母親という事が判明します。それは同時に礼三郎と丹波守が兄弟という事にもなります。
蓮京院はキーパーソンな存在だったと言えるでしょう。
蘇芳:紫門ゆりや
丹波守に仕えている大老の役。
大老ですが必要以上に老けさせていなかったので、貫禄がありながらもナチュラルな演技をしていたので、本物の大老がいるように観えました。勿論、舞台を引き締めていた事は言うまでもありません。
花組の作品には『冬霞の巴里』に出演していますが、本公演は今作が初です。
また、2023年10月9日付で花組へと異動し、同時に花組副組長に就任する事が決まっています。長らく月組にいたので、今作を観るまでは「紫門さんは花組に合うのかな?」と思っていましたが杞憂でした。
もう既に見事に馴染んでおり、それどころか「もう何年も花組にいたのでは?」と思ってしまった程です。
味わい深い演技で今作をより魅力的にした紫門さん。
花組に異動してから、どの様にご活躍されるのかが楽しみになりますね。
天風院:美風舞良
山寺の尼僧の役。
この役は物語上あまり重要な役とは言えなかったかもしれません。正直いなくても物語は成立します。京さんが演じた蓮京院の様に「えっ、そうなの!?」みたい事も無いですし・・・。
美風さんの持ち味を活かせた役とは言えないと、私は感じてしまいました。
道具屋六兵衛:航琉ひびき
古道具屋の主人の役。
とても口が上手くカモになりそうな人を見つけては、平気で偽物を売りつける悪徳な性質の人物です。しかしどこか憎めない所があり、決して憎々しい役ではありません。
台詞はとても多く、それを早口で時に大仰さを交えながら喋っていました。とても楽しそうに演じていましたが、実際は大量な台詞やキャラ作りで苦心したのではないかと思います。
とても印象に残る役でした。
今作を最後に航琉さんは宝塚をご卒業します。
花組の副組長になったばかりだったので、退団を発表された時は驚きました。
宝塚をご卒業後もお幸せな人生を歩む事を祈っております。
志村狂斎:和海しょう
お春の父親役。
貧乏なのに骨董品ばかり買っている〈骨董品依存症〉の性質を持っている役柄です。100歩譲って自分で稼いだお金で買うなら、まだ許されますが、狂斎は娘のお春が稼いだお金で骨董品を買ってしまっています。
性格的にはコミカルで、娘のお春を大事に思っています。
でもハッキリ書きますが、この上ない駄目親父と断言して良いでしょう。ただ、唯一の救いは狂斎が暴力的でない事です。
これがもし「こないだの傘の売上出せや!」と、力尽くで奪う様な性格だったら、もう目も当てられません。
とは言ってもねぇ・・・。
客席から観ている分には狂斎というキャラは非常に笑いを誘って面白いですが、自分の家庭にこんなのがいたら、もう地獄としか言いようがないです。
非常に笑いを誘うキャラと書きましたが、その分和海さんはこのキャラを作るのに難儀したのではないでしょうか?
1歩間違えたら憎まれ役になってもおかしくないこの役を、和海さんは絶妙なラインでそうはならずに観客の笑いを沢山誘っていたのですから、見事としか言いようがないです。
また、ソロも多くあったので耳福でもありました。
今作で和海さんは宝塚をご卒業されます。
行く末は花組の副組長や組長を経て、専科でご活躍されると思っていました。ですので和海さんが宝塚を去る事は本当に悲しいとしか言いようがありません。
宝塚をご卒業後もご多幸な人生を歩まれる事を祈っております。
香川屋宗七:羽立光来
香川屋の主人、おとみの父親役。
出番はそんなに多くないですが、おとみの事をとても可愛く思っている優しい父親という雰囲気が出ていました。
麗姫:春妃うらら
丹波守の正室の役。
今作は個性的だったりコミカルなキャラが多いですが、麗姫はその中でもまともなキャラとなっています(笑)。
花咲藩の重宝〈鴛鴦の香合〉を探す様に家臣に指示したり、それが見つからなかったら秀千代に家督を継がせよ、と言ったり結構頭が回る性質です。
ですので麗姫がもし男だったら、間違いなく有能な臣下として殿の右腕になっていたと言えるでしょう。
今作を最後に宝塚をご卒業される春妃さん。
大人の女性としての魅力がどんどん高まってきていたので、退団をされるのは本当に寂しいです。
どうか宝塚をご卒業後もお幸せな人生を歩む事を祈っております。
遠山満右衛門:綺城ひか理
礼三郎のおじの役。
やや思い込みが激しい所があり、自分1人の考えで何もかもやろうとして暴走する性格です。
もし会社にこの様な人がいたら、「思い込みで仕事をしないで! もっと周りの状況を見て!」と言われるでしょう(笑)。
花組に戻ってきた綺城さん。
ソロでの歌唱は更に熟した歌声になっており、もうひたすらその朗々とした歌声にウットリとしていました。「もっと聴きたい!」と思わせます。
綺城さんが歌っている間は間違いなく、劇場の空間を支配していたと言っても過言ではないでしょう。
おしづ:凛乃しづか
遠山満右衛門の妻、藤尾の母親役。
ややかかあ天下な性格であり、台詞や出番自体は多かったとは言えませんが、その限られた中でも、観客に印象付けたと言って良いでしょう。
満右衛門は1人で暴走する所があるので、おしづの様な存在は重要だと思いました。
秀千代:聖乃あすか
丹波守の弟、蓮京院の息子の役。
丹波守の様に骨董品に現を抜かしてはいませんが、ちょっと臆病な性格なのか頼りない雰囲気が出ていました。
家督を継ぎたくないと拒否する姿は可愛らしかったです。
乳母:鈴美梛なつ紀
藤尾の乳母役。
乳母と言うにはちょっと若めの作りの様に感じましたが、藤尾の事を我が子の様に思う心情が台詞の端々から伝わってきました。
少しですがソロでの歌唱もあり、その上手い歌声で物語を盛り上げていたと思います。
三吉:天城れいん
香川屋の丁稚の役。
非常に可愛らしく純な性格の役柄でした。この様な少年なら一家に1人欲しいかもしれません(笑)。
おとみの丁稚として仕えていますが、おとみが嘘を言って礼三郎とお春の中を引き裂こうとした時は苦言を呈しました。その姿は非常に真っ直ぐであり、三吉が言ったからこそ説得力があったと思います。
天城さんの演技が上手かった事は勿論ですが、ソロでの歌も混じり気の無い元気な歌唱だったので、観客に深く印象付けたと言って良いでしょう。
藤尾:美羽愛
満右衛門の娘の役。
お春やおとみの様におきゃんな感じではなく、また、この2人よりも世間慣れしていない雰囲気が出ていました。
初心な姿が可愛らしかったです。
また、美羽さんは舞羽美海さんに似ていると以前から思っていましたが、今作を観た所、舞羽さんより愛加あゆさんに似ている気がしました。
空丸:美空真瑠
秀千代付きの小姓の役。
フレッシュな少年という雰囲気が出て可愛らしかったです。
台詞も多く結構目立っていました。
おとみ:星空美咲
宗七の娘の役。
おきゃんで頑固な性格ですが、お春と違ってこちらは陽キャな感じです。
おとみが現れると何故か、取り巻き(と言うよりファン?)も一緒に舞台に現れます。ですので、登場しただけでもう舞台が賑やかになりました。
おとみは何としてでも礼三郎と一緒になりたいと思っており、その気持ちが強くなりすぎて、嘘を言い礼三郎とお春の中を引き裂こうとします。しかし三吉から苦言を呈され目を覚まします。
欲しい物は何としてでも手に入れようとする性質がありますが、決して人の思いを踏みにじってまで自分の物にしようとはしない所が伺えました。
星空さんが持つ可愛らしさも相俟って、おとみは非常に魅力的な役柄と言えるでしょう。また、どこにいても目に付くのは星空さんが持つスター性だと思います。
コメディエンヌとしてのレベルも高い花組生
宝塚で花組というと正統派のイメージが強いです。しかし今作『鴛鴦歌合戦』は決して正統派ではなく、ちょっとトリッキーな作品となっています。
確かに宝塚をイメージする様な作品とは言えないかもしれませんが、それでも見事に宝塚化して、とても面白い作品に仕上がったと断言して良いでしょう。
ましてや正統派と言われている花組が、それをしたのですからもう「お見事!」としか言いようがないです。
今作はコメディ作品で非常に笑いが多い作品となっています。
しかし、コメディ作品は他のジャンルと比べて作るのが難しいと言われています。そんな中でも見事に観客の笑いを誘っていたのです。しかも笑いを誘っていたのは特定の誰かではなく、様々な人物が笑いを誘っていました。それが非常に大きいポイントと言えるでしょう。
ですので、私は観終わった後「花組生はコメディエンヌとしてのレベルも高い」と思いました。そう思ったのは私だけではない筈。
『鴛鴦歌合戦』はハッキリ言って、そんなに内容がある作品ではありませんが、だからこそ逆にここまで濃い作品に仕上げた事に拍手喝采を送りたいのです。
花組生の別な一面を観る事が出来たのが、私にとって大きな収穫でした。
花組に限りませんが宝塚は是非今後とも、この様なトリッキーな作品に挑戦し続けてほしいと思います。
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